すね! 僕なんか意気地がなくて、とても住んでられやしない……」
「ペリッがいますわ! ペリッがいれば、もう怖《こわ》い人が十人くらいかたまって来たって、何ともありゃしませんわ。夜だって、見回ってくれますし……わたしたち碌々《ろくろく》、戸締りなんかしたこともありませんのよ」
 と妹娘が眼をクリクリさせて、口をはさみました。ペリッというのは、犬の名前なのです。そして私たちの話は自然、犬のことに移りました。ペリッは生まれた国では、牛犬《クラブニ・ハウ》といって、この犬一匹いれば猛牛二頭を倒すと、昔からいわれているのだそうでした。元々はコリー同様、牧羊犬なのだそうですが、今ではもっぱら番犬として珍重されて……しかし、原産地地方でも今では数が尠《すくな》くて、ほんとうの牛犬《クラブニ・ハウ》はそう沢山にはいないというのです。
 が、今いるのは生粋《きっすい》の牛犬《クラブニ・ハウ》だと教えてくれました。ついこの一月までは、雌雄《しゆう》番《つがい》でいたけれど、心臓《フィラリア》を患って今では雄一匹になってしまったのだと、仲好しらしい妹娘の方が残念そうにそういうのです。
「じゃ、さっき、貴方が
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