う》の船もなく、船どころか! 見える限りの景色のどこにも、また家の中にもこれ以上の人はいないように思われます。あんまり寂寞《せきばく》過ぎて、なんだかそれが私には、不思議でなりません。ですから飽きずにそんな質問ばかり、繰り返していたような気がします。初めのうちは、酔興でどこかこの辺の都会地の人が別荘でも構えているのか? と思いましたが……。
「こんな山の中に、こんな立派な家を構えて……お父様でも貴方《あなた》がたでも、そんな綺麗《きれい》にしてらっしゃって……」
と、私はもう一度、格天井《ごうてんじょう》に眼を放ちました。
「実際不思議です、僕にはそれが、不思議でならない……どこを見ても、誰一人人はいやしないし……なぜ、こんな淋《さび》しいところに、住んでらっしゃるんですか?」
「だって、父がここが好きで、住んでるんですもの、仕方ありませんわ」
と姉娘が笑い出しました。
「淋しくないんですか?」
ちっとも! という返事です。
「わたしたちもう七年も、ここに住んでますけれど、淋しいなんて感じたことなんか、ありませんわ」
「へえ!」
と私は、感心しました。
「よく、淋しくないもんで
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