《もた》れていると、恍惚《うっとり》と眠けを催すほど、長閑《のどか》な気持になってきます。そして、美しい娘二人の並べてくれたこの食事の、どんなに美味なことだったでしょう。
「生憎《あいにく》今日は、御飯を炊いてませんのよ、お口に合いますまいけれど、どうぞ!」
と妹の勧めてくれるおいしい裸麦《ライむぎ》の麺麭《パン》や、カルパス、半熟卵、チーズだとか果物、さっきのような強《きつ》い珈琲《コーヒー》……どんなに生き返ったような気がしたか、遠くの海を眺《なが》めながら、そして庭の緑に眼を放ちながら、麺麭をちぎり卵を抄《すく》い……私が饑《う》えを満たしている間、娘二人は両端に座を占めて、紅茶を飲みながら久しぶりの客をもの珍しそうに、東京の話、私の通って来た雲仙《うんぜん》からの道中、登って来た山々の話なぞ、それからそれと話し合っていました。なるほど私の想像していたとおり、同じような顔立ちながら、姉の方は無口とみえて恍惚《うっとり》と細目に眸《め》を開いて、ただ夢のようにほほえんでいるばかり、私の相手は妹に任せている風でした。
そして、今でも覚えているのは、この眺めている海には一艘《いっそ
前へ
次へ
全199ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング