ところだとお思いでしょうな?」
紳士は、穏やかにほほえみました。そして私の旅行話に興味を持ったらしく、小形の地図なぞを出して、フムフムと相槌《あいづち》を打っていましたが、そのうちに例の娘は珈琲《コーヒー》を淹《い》れて、運んで来てくれました。
どういう淹れ方か? 私は一遍、東京で土耳古《トルコ》風の淹れ方だとかいって、叔父の相伴《しょうばん》をしたことがありましたが、ちょうどそれと同じでした。小さな茶碗《ちゃわん》に、苦味《にがみ》の勝った強《きつ》い珈琲をドロドロに淹れて、それが昨日から何にも入っていない胃の腑《ふ》へ沁《し》み込んで、こんな旨《うま》い珈琲は、口にしたこともありません。
その珈琲を御馳走《ごちそう》になってるところへ、にこにことほほえみながらまた一人、美しい娘が現れて来たのです。
「ジーナ、お前もかけて、珍しいお客様のお話でも、伺ったら?」
と紳士が勧めましたが、スパセニアが働いてますから、わたしも手伝って! とか何とか、いったようでした。そして顔を染めながら、逃げるように行ってしまいました。その娘の美しさにも、私は眼をみはらずにはいられませんでした。
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