さ》りして行きました。が、驚破《すわ》といえばまだ躍り蒐《かか》らんばかりの、凄《すさ》まじい形相です。私はやっと吻《ほ》っとしましたが、こんなところで、こんな物凄《ものすご》い犬に襲われようとも思わなければ、馬に乗ったこんな綺麗《きれい》な女に出逢《であ》おうなぞとは、夢にも思いません。呆気《あっけ》に奪《と》られて私は洋杖《ステッキ》を振り上げたまま、夢に夢見る気持で、女の姿を見上げていたのです。
 しかも、見れば見るほど何という、美しい女でしょう。年頃はまだ十七、八、あるいは十八、九くらいかも知れません。ふさふさとした亜麻色の髪が、キラキラと陽《ひ》に輝いて、紛《まご》う方ない混血児《あいのこ》です。その髪を両耳|掻《か》き上げて、隆《たか》い鼻、不思議そうに私を見守っている、透き徹《とお》るような碧《あお》い眸《ひとみ》……真っ白なブラウスに、乳色の乗馬|洋袴《ズボン》を着けて、艶々《つやつや》した恰好《かっこう》のいい長靴を、鐙《あぶみ》に乗せています。
 そして、細い革鞭《かわむち》を持って、娘の方でも思いがけぬところへ現れた私の姿に、びっくりしているのです……手綱を絞られ
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