麓《ふもと》になっていたのです。
突然ウーッ! と、地響きのするような猛烈な唸《うな》り声を立てて、小牛ほどもある真っ黒な猛犬に、襲い蒐《かか》られました。
「呀《あ》っ……コラ!」
とびっくりして、私は、持っている岩躑躅を投げ付けました。敵対すると思ったのでしょう、犬は項《うなじ》の毛を逆立てて、眼を瞋《いか》らせて、いよいよ獰猛《どうもう》な唸りを立てて、飛びかかって来ます。まだ私は、こんな恐ろしい犬を見たことがありません。小刀を投げ付け、洋杖《ステッキ》で右に払い左に薙《な》いで、必死に禦《ふせ》ぎましたが、犬はヒラリヒラリと躍り越えて、私は顔色を失いました。この時ばかりは、駄目だ! と、観念したのです。と、その途端、
「ペリッ! ペリッや、どうしたの? ペリッ!」
と優しい女の声がして、私の眼の前に、ついそこの岩陰から姿を現したのは、立派な白馬に跨《またが》った、洋装の若い女です。
「これ、ペリッ! もうわかったからいいのよ、咆《ほ》えるんじゃないといったら!」
女主人の制止に、仕方がないと諦《あきら》めたように、犬はウウッーと喉音《こうおん》を立てながら、後退《あとず
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