らでも、もう三時間くらいは歩いていましたから、野宿したところからでも三、四里ぐらいは来ていたろうと思います。
やっと、吻《ほ》っとしました。今|頂《いただき》に立って、大きな赤松の枝の間から眼を放った遥《はる》かの端《はず》れに、涯《はて》しもない海が、真蒼《まっさお》な色を見せているのです。地図にも載っていませんから、ここが何というところかわかりませんが、いよいよ海岸へ出端《ではず》れて来たのです。南高来《みなみたかき》郡の西端、千々岩《ちぢわ》湾の海岸へ、抜けることができたのです。この海岸に沿っていけば、小浜の町へ辿り着けることは、もう間違いありません。
まさか、こんなところで野宿しようとは思いませんから、昨日宿を出る時に拵《こしら》えてもらった、昼の弁当の残りを詰め込んでいるばかり、疲れてもいますが第一、腹が空《す》き切ってペコペコです。が、いよいよ目指す海岸へ出た喜びに、その辺の百日紅《さるすべり》の手頃な枝を切って、洋杖《ステッキ》なぞを削りながら足も軽やかに、山を降りていたのです。と、岩躑躅《いわつつじ》の一杯に咲き乱れた、そこの岩陰を曲った途端に、――もうそこは、山の
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