ぬ山の道で、ふと気が付いた時は、今から考えれば、……その地図の下の方に出ているでしょう? 笹田というところあたり、だったかも知れません。もうさっきの戸石川という分岐点からは、二、三里ぐらいも過ぎていたろうと思います。
 失敗《しま》った! と、思いました。しかし、もうこの道を、後戻りするのも面倒ですから、なるべく南へ下らずに、北東へ道を取っていっそのこと小浜《おばま》の町へ、出てしまおうと考えました。そうすれば、今夜はもう仕方がないから、その辺で野宿をして、明日《あした》は朝の七、八時頃には、小浜へ行き着けるに違いないと思ったのです」
 と言葉を切って、しばらく休んでいた。
「でも、もうそんな山の中の話なぞは、お厭《いや》でしょう? 簡単に、申上げてしまいましょう。その晩は到頭その山の中で、野宿をしてしまいました。元気な時でしたから、碌《ろく》な仕度もせず、碌な食糧一つ持たずに、平気の平左だったのです。
 そして、翌《あく》る朝は夜が明けるとスグに、歩き出しました。私の辿《たど》っている道は、最短距離のつもりでわざと、山の背伝いの細道を、分けていたのです。そして今朝《けさ》歩き出してか
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