がったでやすが、ジーナ嬢様の死体は、ついその辺から上がったでがして……」
 とすれば、左前頭部に一弾を受けて、ジーナが血煙立てて倒れたのも、またこの辺であろう。万籟《ばんらい》闃《げき》として声を呑《の》む、無人の地帯にただ一人、姉の死体を湖の中へ引き摺《ず》り込むスパセニアの姿こそ、思うだに凄愴《せいそう》極まりない。その辺になお血痕《けっこん》斑々《はんはん》として、滴り落ちているかと疑われんばかり、肌《はだ》に粟《あわ》の生ずるのを覚ゆる。


 このあとがきをつけるのは、正確な記録を申上げるためなのだから、まず山の名から詳細に書いてゆこう。今登ってる山を唐倉山《からくらやま》という。この山腹を伝い登ること約三十町、志方野を越えて、さらに次の山路に入る。この山を朝倉山という。スグ続いて赤名山の山腹に入る。
 この三分の一行程ぐらいのところで、いよいよ問題の細道……※[#「木+無」、第3水準1−86−12]《ぶな》と栃《とち》の大木の繁《しげ》り合った、草むらへ出るのであるが、これらの山道は、いずれもさほど急峻《きゅうしゅん》なものではない。が、頭上に山の頂や隣の峰々が高く聳《そび
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