と、六蔵の念仏のみが、痛切に胸に沁《し》み込んでくる。合掌して、焼け跡から折り取って来た生前遺愛の蔓薔薇《つるばら》を供え、香を焚《た》く。運命の人よ! 八十年生きるも百年生くるも、人の世はすべてこれ夢! 地上すべての煩《わずらわ》しさを断って、悠々《ゆうゆう》と安らかなる眠りを眠られよ!
 牧田氏の知らせによって四里の道を越えて故青年の所謂《いわゆる》、伊手市《いでいち》どん……水の尾村の石工《いしく》、吉永伊手市氏と、肥後屋の亭主、半田|藤五郎《とうごろう》氏が来てくれる。藤五郎氏が背負って来た弁当を、自動車中で認《したた》めて、いよいよ姉妹《きょうだい》の墓に詣《もう》ずるべく湖岸を西に向って歩き出す。
 故石橋氏の遺志を継いで、東水の尾岬一帯を水の尾村営の温泉観光施設とすべく、すでに水の尾より二里ばかりの間は、自動車路が完成したという。が、こちら側はまだできていないから、これから一里半ばかり姉妹の墓のあるところまでは、歩かなければならぬ。
「湖は、真ん中よりもかえって、この辺の方が深いでがして……」と六蔵が教えてくれる。
「スパセニア嬢様の死体は、発電|小舎《ごや》の近所から上
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