》みの中で見たジーナの姿だったのです……それから一週間ばかりたって、門前に佇《たたず》んでいた、あの恨めしそうなスパセニアの顔だったのです……そうだ、もうあの時は、二人とも死んでいたのだ。そして死ぬとすぐ二人とも、私を迎えに魂が飛んで……来た……のだ!
「おうい、ちょっと待ってくれえ! 旦那《だんな》様、どうしましたえ? 早くいらっしゃいませえ!」
 と、亭主は向うから声をかけましたが、私は立ちどまったまま、足が竦《すく》んで進まないのです。ただ意気地なく、からだがガタガタ震えて……。
 何と叫んだか、もう覚えがありません。気が付いた時は夢中で、私は山を駈《か》け上っていたのです。今来た水の尾への道を!
 そして、私が逃げて来ると同時に、先に進んでいた連中もワーッと血相変えて、算を乱して駈け上って来るのは覚えていましたが、ただそれだけ! 悪寒《おかん》のようにからだがブルブルブルブル止め度もなく震えて、息を継いでは走り、また継いでは走り、そのほかのことは何の覚えもありません。ただ、いくら走っても走っても、今見た墓の恐ろしさだけが眼に焼き付いて、何としても離れないのです。
 昨夜《ゆうべ
前へ 次へ
全199ページ中170ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング