で真っ黒になっていた。
「あの辺には、相当な山が沢山にあります。吾妻《あづま》山……鳥甲山……国見《くにみ》岳……山へ登っては温泉へ泊り、温泉へ泊っては山へ登って、一週間余りも遊び暮したでしょうか? 最後に高岩山へ登って、あれから戸石川の渓谷に沿って南有馬へ出て、景色のいい千々石《ちぢわ》湾の海岸をバスに揺られて小浜《おばま》、諫早《いさはや》へ出て帰るつもりで計画《スケジュール》を立てていたのです。
そのために、到頭一生忘れられぬ記憶を、刻み付けられてしまいましたが……塔沢岳、稲荷《いなり》山……地図に磁石を当て当て、道を南へ取って進みました。あの辺の山は、そう驚くほどの高さではありません。精々四、五百メートルから七、八百メートルくらいです。北アルプスや立山《たてやま》を踏破してきた身には、何でもありませんが、割合に奥行きが深くて、どこまでいっても山脈《やまなみ》が尽きないのです。松や杉の木立が、鬱蒼《うっそう》と繁《しげ》っています。
私が、一番最後に登った高岩山の麓《ふもと》から、三脱という部落を過ぎて南有馬の町は、まっすぐ南へ直線コースで大体、三里半ぐらいと踏みました。そし
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