十一

 姉妹《きょうだい》の教えてくれた肥後屋という旅籠《はたご》屋は、村の中ほどにありました。私が疲れ切った足を引き摺《ず》って、この宿屋へ着いたのは、夜ももう八時近くだったでしょうか? 辺鄙《へんぴ》な片田舎の宿屋ですし、泊り客もないとみえて、静まり返っていましたが、さて奥まった部屋に通されて、やっと食事も済ませて人心地ついたからだを伸ばしている時に、朴訥《ぼくとつ》そうな四十五、六の亭主が、
「お客様、さきほどはまことにご丁寧さまに」
 と、さっきやった茶代の礼に、はいって来ました。
 お客様、明日はどちらの方へおいでになりますか? 山越えで雲仙《うんぜん》へでも? とか、どちらからおいでになりました? とか、どこも変らぬ宿屋の亭主らしい挨拶《あいさつ》をしていましたが、亭主のつもりでは、こんなお愛想の一つ二つも並べて、引き下がるつもりだったかも知れません。が、私が小浜《おばま》から大野木村を過ぎて、東水の尾から四里の山越えをして来たと聞くと、何ともいえぬ好奇の眼を輝かせました。
「ほう、珍しいところを通っておいででございましたな? どなたかあの辺に、お知り合い
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