上くだくだしくいわずとも、この物語がこの病青年から出たものであるということは、読者にもおわかりになったであろうと思われる。病人が亡くなったのは、その時訪ねて三日ばかり間を置いて、もう一度訪ねてから都合二回の私の訪問の後、おそらく一週間か、十日目くらいではなかったかと思われる。
今でも眼を閉じると、持っていった薔薇《ばら》を喜んで花瓶に挿《さ》して、その日薔薇の花弁《はなびら》より、もっともっと青白い顔で天井を瞶《みつ》めながら、喘《あえ》ぎ、ポツリポツリ、話していたあの時の姿が、眼に見えるような気がする。では、青年の話へ移ることにしよう。
ただし、物語の性質が性質だけに、現住の人々に迷惑をかけてはいけぬから、土地の概念だけは適当に私が変化しておくことにする。その辺に無理が起るといけぬから、あらかじめ御諒承《ごりょうしょう》を願っておこう。
一
「私がそこへいったのは、ちょうど医学部の三年になったばかりの頃……二十二の時でしたから、今から三年ばかり前……まだ身体が丈夫で、元気一杯の時だったのです」
と壮健《たっしゃ》だった時分を愛《いと》おしむような調子で、病人は語
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