申上げてはいないのです……」
「わかりました……わかりましたから、そう昂奮《こうふん》してはいけません」
 と、私は制した。
「お易《やす》い御用です」
 と、承諾した。
「貴方《あなた》のお話が、ウソなぞと決して思いません。思うくらいなら、こうやってお話を伺ってはおりません。……ただ……ただ、お聞きしたところで私には、何のお役にも立つことができませんが、しかしそれで貴方のお胸が晴れるのなら、喜んで伺わせてもらいましょう。どうぞ、気の済むまで、お聞かせ下さい。……それから、その土地へ行って貴方の仰《おっ》しゃったお墓を、見るということ。外国では困りますが日本国内なら、どこでも結構です。都合なんぞかまいません、スグ行ってみることにしましょう。行って貴方の代りに、見て来ましょう。ハッキリとお約束します」
「先生、もう何にも……何にも……申上げる言葉が……ありません……」
 と瘠《や》せ衰えた頬《ほお》に、ポロポロ涙を伝わらせながら蒲団《ふとん》に顔を隠して、枯木のような手を差し出した。その手を握りながら、病人の話しやすいように、もう一膝《ひとひざ》私が乗り出したといったならば、もはやこれ以
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