れて暮す二週間……この間に何とか父に頼んでみようと思いました。そして、道後へ着いてからも、毎日毎日退屈な日を、父の謡《うたい》を聞かされたり、碁《ご》の相手をいいつかったりして暮しながら、何と父に持ちかけようか? とその機会《おり》ばっかり窺《うかが》っていました。
 道後へ来てから、五、六日もたった頃でしょうか?
「どうだ退屈したか?」
「退屈はかまいませんけれど……お父様! 僕は少しお父様に、相談があるんです。……友達のところへ、ここへ来てるといってやったら、ここまで来てるんなら、寄ってくれたっていいじゃないか? といって来たんです。僕、いって来てもいいか知ら?」
「いって来たらいいじゃないか!」
 と、父は好きな唐詩撰《とうしせん》を読んで、殊《こと》に機嫌がいいのです。
「だっていけばスグには帰れませんから、三日ぐらいかかりますよ、かまわないか知ら?」
「三日?」
 と初めてびっくりして本から眼を離しました。
「なんだ、ここじゃないのか?」
「山口県の宇部《うべ》というところなんです。一緒に宇田中の温泉へ行こうと、楽しみにして来てるんです。特別親しくしてるもんですから……」

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