事に通り越すことができました。木《こ》の芽《め》時《どき》といって、私のようなからだには、入梅頃から新緑へかけての気候が一番いけないのですが、どうやらその時季も無事に通り越して、待ち切っていた夏休暇も迎えることができました。
 休暇に入ればもちろん、私にとっては九州が第一の問題です。が、去年も患い、今年もまた患ったこのからだでは、どんな理由をつけたからとて日帰りならともかく、一週間十日に亘《わた》る単独の旅行なぞに、父母が出してくれようはずがありません。何とか親をゴマカス旨《うま》い手段はないかと、伊東の別荘へ行けと勧める母の言葉を渋って、無理に東京で考えこんでいたのですが、偶然にも、父が休暇を取って、道後《どうご》の温泉へ行くことになったのです。道後ならお前のからだにもいいしということになって、二週間ばかりの予定で、父の供をして行くことになりました。どんなに私は、それを喜んだかわからないのです。
 父ならば母ほど喧《やかま》しいこともいいません。母はまるで十二、三の子供くらいにしか私を扱いませんが、父は、もう少しは私に理解も持ってくれれば、一人前の大学生としても扱ってくれます。母と離
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