った。
「江崎さん、早くその注射器を! 大丈夫、大丈夫! スグ納まる……貴方《あなた》は氷を砕いて来て! ……じっとしてらっしゃい、じっとして……しばらく、じっとしてらっしゃい」
夢中でオロオロしてたから、もはや私はそれからのことを覚えない。物慣れた看護婦が注射をして、病人を安臥《あんが》させる。これではもう、話も何もあったものではない。あんまり話に身を入れ過ぎたのが、いけなかったのか? 長い話が、身体に障ったのか? 遠慮して階下《した》へ降りようとするところで、階段を急いで来た母夫人と、女中|頭《がしら》に出逢った。
「恐れ入りますが、しばらく応接室の方で……幾や、御案内申上げて……!」
この取り込んでいる最中に、もはや話も何も、あったものではない。喀血の後では、当分の安静も必要であろう。他日を期して私は帰路に就いたのであったが、この病人が亡くなったのは、その時訪ねて三日ばかり間を置いて、もう一度訪ねたから「都合二回の私の訪問の後、おそらく一週間か、十日目ぐらいではなかったかと思われる」と、最初に私の書いたその第一回の訪問はここまでなのである。
続いて第二回の訪問……来て欲しい
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