、東京にいることだけは、間違いない……返事の来ないこないだの電報のことを思い出して、その解けぬ謎《なぞ》を考え倦《あぐ》ねながら、私はいつまでもいつまでも薄暗《うすやみ》の中に突っ立っていました。
「ハッキリとは記憶しませんが、それは何でもジーナに逢《あ》ってから五、六日の後、四月の二十五、六日頃ではなかったかと、思います。その時そんな凄《すさ》まじい事件が、姉妹《きょうだい》の上に起ってようなぞとは夢にも私は……し……知らなかった……の……です……」
と青年の言葉が、糸のようになって消える……。
「おや! どうかなさいましたか?」
と私が覗《のぞ》き込んだ刹那《せつな》、突然青年は、さし俯《うつむ》いた。ゴホゴホと絶え入れるように咳《せき》入って、片手がまさぐるように、枕許《まくらもと》のハンカチへ行く。苦しげに口許を抑えたハンカチへ、突然べっとりと真っ赤な血が!
「ど、どなたかいられませんか? 早く、早く、来て下さい!」
私の喚《わめ》いたのと、隣室から二人の看護婦の駈《か》け込んで来たのが、同時であった。続いて真っ赤なものがまたどっと! 喀血《かっけつ》であった。大喀血であ
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