しょうか? 二、三日前にも、薄闇《うすぐら》くなってから門の前に立って、じろじろお邸の中を、覗き込んでたそうでございますがね。……またその女が覗いてるとかって……みんなで、騒いでるんでございますよ」
「……へえ! フウン」
 と頷《うなず》きましたが、別段私の心を打つ何ものでもありません。
「とても綺麗《きれい》な、混血児《あいのこ》のお嬢さんですとか……」
「何? 混血児?」
 途端に私は椅子《いす》を蹴《け》って躍り上がりました。いつかのジーナを、思い出したのです。
 ジーナが来ている……私に逢《あ》いたくて、泣いている! テラスを飛び降りて、奥庭の柴折《しお》り戸《ど》を突っ切って、どこをどうして門の砂利道まで躍り出たか覚えがありません。夢中で飛び出して、門の柱に身を寄せた女と眼が合った途端、おう! スパセニアだ! と私は大声を上げました。ジーナではありません、スパセニアだったのです。
 しかもそのスパセニアが、私の姿を見ながら、確かに私と真正面《まとも》に顔を合わせながら、懐かしむどころか! 涼しい眸《ひとみ》に、憤りとも怨《うら》みとも付かぬ非難の色をうかべて、涙ぐみながら唇
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