ちました。まだそこにいるかどうか? そして返事は電報でなく、手紙で欲しい! と父母の眼を憚《はばか》って書いてやりました。が、いくら待っても到頭返事は来なかったのです。しかも、その返事も来ないうちに……無理にコジツケテ、ジーナはあるいはその時の私の幻覚だったかも知れないとしても、それならばその電報の返事も来ないうちに、またもや起ったもう一つの不思議な出来事は、それも私の幻覚なり錯覚だと、いうことになるのでしょうか?
父はまだ銀行から帰らず、母もその時どこかへ出かけていました。そして、そろそろ夕闇の迫る頃だったと思います。私はテラスの椅子《いす》に凭《もた》れていました。バタバタバタバタと小走りに何だか玄関の方が、騒がしい様子です。
「何だい? 幾! どうしたんだい?」
と私は、廊下を通りかかった女中|頭《がしら》の幾に聞いてみました。
「何を騒いでるんだい?」
「厭《いや》でございますねえ、若様!」
と幾は恐ろしげに首を竦《すく》めました。
「若い女が泣きながら、お邸《やしき》の中を覗《のぞ》いてるんだそうでございますよ」
「若い女が? どうしてだい?」
「さ、どうしてでございま
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