ず》んでいました。ただガヤガヤと目眩《めまぐる》しく雑踏して、白昼夢のように取り留めもない騒がしさばかりです。
姿を見失った淋《さび》しさは、食い入らんばかりの寂寥《せきりょう》を伝えてきましたが、もともと、九州の山の中にいるジーナが、こんな東京の真ん中になぞ、いるはずもないことですし、いわんや、東京へ来るという一言の挨拶《あいさつ》もなしに! やっぱり心の底で考えてるから、こんな錯覚が起るのか知ら? と、苦笑しいしい帰って来た時の気持を、今でも忘れることができません。
九
が、苦笑はしても、ジーナが東京にいるはずがないとは思いつつも、今でもその時のことを思い出しさえすれば、どうしても私にはあれが単なる私の幻覚や人違いだったとは、絶対に考えられないのです。キラキラした髪……挙措《ものごし》、恰好《かっこう》……ちらと横から見た、睫毛《まつげ》の長い眸《め》……優しい頤《おとがい》……決して決して、私の幻覚や見誤りなぞでは、ないのです。しかもジーナが東京にいるはずはなく、こんな奇怪なことがまたとあり得ることでしょうか?
早速私は、大野木郵便局気付で、ジーナへ電報を打
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