ナ! 熱が出た! 三十九度ある」
と世にも情けない声を出した。
「何?」
と思わず私も折り重なって体温計を透かして見たが、不思議なるかな、度盛りは確かに三十九度を示している。急いで当人の額へ手をやってみると、なるほど火のような熱であった。そしてグスはもう腰掛けてもいられぬらしく、長椅子《ソーファ》の上にグッタリとノビていたが烈《はげ》しく眩暈がしてくるという訴えであった。
「ああ苦しい! タチバナ、酷《ひど》い物を俺に飲ませてくれた! 苦しい! 胸が灼《や》け付くように苦しい!」
と頸《くび》に手をやって、カラアもワイシャツもバリバリと掻《か》き破りながら、長椅子の上にのた打っているグスタフを見ていると、私も思わず竦然《ぞっ》と身震いがした。万一そんなことがあろうとは思われぬが、もしや私のやった葛根湯の中に、間違って何かの毒でも混入していたのではなかろうかと、私も蒼《あお》くなった。グスタフはのた打ち廻って、もう側に私のいることにも気が付かぬらしかった。
「駄目だ! 手が麻痺《しび》れて[#「麻痺《しび》れて」は底本では「痳痺《しび》れて」]きた。早く医者《ドクター》を呼んでくれ
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