り出したが、今にも眩暈《めまい》が始まってくるかと思えば心も心ならず、またぞろ頭を抱えた。
「俺はつくづく君が憎くなる! 人が厭《いや》だと言うものを無理に飲ませておいて、今更こういうことではもう我慢が、できん!」
と体温計を口の中へ突っ込みながら嘆き立てた。
「ではグスタフ、俺は忙しいからこれで失礼をする」
と私は立ち掛けた。途端に慌てて野郎がむんずと私の手を掴《つか》まえた。
「今帰っては困る! しばらくいてくれ! もう少しの間ここにいてくれ! 君にも責任がある。俺の眼が廻ってきたら誰が介抱してくれるだろう。心細いからしばらくいてくれ、訳のわからん東洋の薬なんぞ飲んで今に発熱したり眩暈《めまい》がすると思うと、俺には堪えられん」
「俺が好意で君に薬を勧めているのに、君はそんなことを言って人を脅かす気か」
「脅かすんではない、心細くて堪《たま》らんから、君に頼んでいるのだ! 何でもいいから、しばらく一緒にいてくれ」
とグスはしまいには眼に哀願の色さえ泛《うか》べて、そのくせ恐ろしい腕力で私の手を鷲掴《わしづか》みにして放さなかった。が、その途端であった。
「出た、出た! タチバ
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