葛根湯
橘外男

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)瑞典《スエーデン》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)|静かに《クワイエトリ》!
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 日本へ来て貿易商館を開いてからまだ間もない瑞典《スエーデン》人で、キャリソン・グスタフという六尺有余の大男がある。図体《ずうたい》に似合わぬ、途方もない神経質な奴であった。ある朝、用事があって訪ねて行ってみるとこの動脈硬化症は手紙を書いていたが、人の顔を見るといきなり手を振って、
「|静かに《クワイエトリ》! |静かに《クワイエトリ》! |小さな静かな声で話してくれ《スピーク ソフトリ》! |頭に響いてどうにも堪えられんから《ゲドン マイ ナーヴァス》」
 と言うのであった。鼻風邪を引いたというのだったが、なあに引いたのは鼻の一部分だけで別段熱も何にもなく、のべつに涙を溜めて嚔《くしゃみ》をしているだけのことであったが、そこが大分人よりも違っている超神経質氏《スーパーナーヴァス》であったから言うことが頗《すこぶ》る振るっていた。内科医のところへ行くとありもせぬ病気をみつけ出されるのが怖いというので、
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