絶対に足を踏み込まぬ男であったが、それほど気分が悪いのならジンかコニャックでも引っ掛けて、蒲団《ふとん》を被って寝ちまったらどうだと言ったら、グスタフは頭に響かせながら、
「WHAT《ホワット》 NONSENSE《ナンセンス》!」
 と顔を歪《ゆが》めた。
「今|三村《ミチュムラ》ドクトルに掛っているのに酒が飲めるか!」
 と際どいところで白状した。
 グスは先月以来、酒を飲むと痛くて飛び上がる病気に罹《かか》って暮夜、ひそかに三村と呼ぶ花柳病《かりゅうびょう》専門の医者へ通っているところであった。
「そんなら、一ついいことを教えてやろう。日本には昔から葛根湯《かっこんとう》といって、風邪にすぐ効く素晴らしい薬があるが」
 と切り出したら、
「日本の訳のわからん薬なんぞ、無暗《むやみ》に勧めないでくれ、NO!」
 とまた顔を顰《しか》めた。私は元来葛根湯という煎《せん》じ薬が大好きで屁《へ》のようなことでもすぐ女房に葛根湯を煎じてもらうのであったが、何もグスに葛根湯を勧めるのは親切気なぞあってのことではない。さっきからあんまり野郎の神経質ぶりが可笑《おか》しいので、一つからかってくれよ
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