うかという気持が、ムラムラとしていたのであった。ところが、いくら勧めても飲むまいと思いきや! どういう風の吹き廻しか、奴《やっこ》さん顔を顰めながらも渋々と、
「では、そのキャコントウというのを飲んでみようか」
 と言い出してきたのであった。御意《ぎょい》の変らぬうちにと、私は早速御苦労千万にも近所の薬屋から葛根湯を一包とついでに万古《ばんこ》焼きの土瓶を買って来て、野郎の面前でガス焜炉《こんろ》へ掛けてグツグツと煮たて始めたが、こっちは笑いを抑えるのに骨が折れたが、グスの方では神ならぬ身の知る由もなく、さも親切そうに私の煮たてている側へやって来て、
「副作用はほんとうにないんだろうな?」
 と土瓶の蓋《ふた》なぞを取って、胡乱《うろん》そうに中を覗《のぞ》いたりしているのが、何とも滑稽《こっけい》で仕方がなかった。
 ともかくグスタフは葛根湯を飲んだ。顰められるだけ顔を顰めて、眼も鼻も口もクチャクチャになくしながら、
「|お飲み《トライ》!」
 と私の差し出した茶碗を仇敵《かたき》のごとくに持ち扱いながら、一口飲んでは首を振ったり顔を背けたり、無理やりに飲み下していた。が、そのたんび
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