に何か込み上げてくるとみえて、慌てて胸を撫《な》で下ろしていた。そこでそろそろと始まってきたわけであった。
「おっ! 俺は一つ君に言っておくのを忘れていた」
 ヒェー! とばかりに野郎が飛び上がった。
「薬のことか? 今の薬のことか?」
「そうだ! 一つだけ副作用のあるのを忘れていた!」
 途端に神経の顔色が颯《さっ》と変った。
「だから俺はそんな日本の妙な薬なぞを飲むのは厭《いや》だと言ってるのに、医者でもないくせに君が無理やりに勧めておいて! ああ困った、もう吐き出すこともできんし、どうにもならん! 俺は実際、薬の副作用だけは何より嫌いなのだ! AW《アウ》! SUCKS《シャクス》! これは弱った」
 と気の早い男があったもので、碌々《ろくろく》聞きもしないうちからもうグンニャリして、椅子《いす》に蹲《うずくま》った。そして恐る恐る顔を擡《もた》げて、
「副作用というのは一体何だ?」
 と聞いた。
「大したことはないが、一時熱が出て眩暈《めまい》がするだけだ」
「それが大したことでないどころか!」
 とグスの顔から、見る見る血の気が引いた。
「そいつは困った、なぜ君は、そういう重
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