つまいものいも床づくりに余念のない百姓たちが、その手を休めて見送るのんびりした光景も、南国らしい眺めである。
佐伊津、御領、鬼池を過ぎると、有明海と、早崎海峡をへだてた島原半島が、指呼の間に望まれる。右手の沖合に、瀬戸内海航行の時見覚えのある、屋島に似た、下手な粘土細工の文鎮をおいたような島がある。湯島という島だが談合島の名もある。天草の乱に際し天草四郎以下の切支丹宗徒の幹部連中が、この島によつて、種々作戦を練り談合したので、それ以来その名が冠せられるようになつたそうだ。見はるかすこの内海を、縦横にかけめぐつて、時の支配階級の宗教弾圧に抗した、切支丹宗徒の情熱が、じかに感ぜられる思いがする。
鬼池あたりからの雲仙が、もつともよい、というさる歌人の随筆を読んだことがある。なるほど晴れ渡つた青空に浮く普賢《ふげん》眉《まゆ》の両山の眺めは、早崎海峡をひかえているだけに、雄大ではあるが、その真反対の北側の雲仙を永年見なれて来た私にとつては、何となくものたりない。雲仙はやはり北方からの眺めに如くはなし、というのは、私の郷土びいきのせいであろうか。
二江を過ぎると、通詞島がある。べつだん解
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