サイドカー(?)が、近距離に行く交通機関であり、島中を縦横にかけめぐるのは、モーターバスだけである。縦横にかけめぐるといえば、いかにも便利のように聞えるが、南端の牛深には、日に一回しかその便がなく、富岡へも日帰りするつもりで行けば、四時間の余裕しかない。だが、交通機関についての意見は、しばらくおくとして、とりあえずその四時間を生かすことにした。
バスは、主として海岸線に沿つて、丘陵から丘陵へと上下しながら進む。沿道は、きのうの上島より、もつと春たけている感じだ。桜はも早満開を過ぎて葉桜に近く、桃の花もすでに花弁が色あせかけている。その間にあつてなしの花が、端麗な色彩を、背後の海の青さに、一そう引立たせている。びわの新芽の青さを、私はしばしばボケの花ではないかと、注意深く眺めたものである。
麦の穂も、ほとんど出そろい、花期の長い菜の花大根の花には、もう青い実がむらがりついている。
グリンピースや蚕豆が、この島の名物の一つと聞いていたが、さすがにその評判に違わず、白い蝶形花冠が、旅人の目をなぐさめる。日に一回しか通らないバスは、村人にとつては珍しいものの一つででもあろうか。折から、さ
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