然とバスの中からも受取れた。赤崎、下津江、大島子と、海岸ぞいに走るバスは、時に島の部落の中を過ぎる。赤い椿の、わら屋根の上におおいかぶさつた南国風景が、青い海を背景にして、きわめて印象的だ。時には、古がわらのひさしを、ところどころくれないに色どつているのを、一瞬バスの窓から垣間みることもある。
 子供たちが、椿の花輪をうちふりながら、私たちを見送つてくれる。家の広場に[#「広場に」は底本では「広間に」]落ちた紅椿の間のえさを、あさり歩くにわとりなど、一寸かめらにでも収めたい一こまであつた。
 ともかく椿の多い島である。
 夕刻、大浦を出て二時間ばかりで、下島《しもしま》への開閉橋を渡つた。町は思つたより奇麗であつた。この夜、蒼州湾に投宿した。
 三月二十四日。
 ゆうべ、土地の青年たちと、夜遅くまで座談会をしたので、思わず朝寝をしてしまつた。八時ごろ起出てみると、稀に見る静かな朝の光と、空の青さであつた。
 毎日新聞のH氏のきもいりで、富岡町に行く手はずをととのえてもらい、十時のバスに乗つた。天草には、汽車電車の便はまつたくない。五人乗りの古風な馬車と、更生車と称する自転車にくつつけた
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