札順にならんで、秩序よく乗つた。もちろん私がさいごで、バスのドアはしまることになつていた。ところが、車掌が一寸油断しているすきに、例の女が、私の後から乗つて来た。車掌は、後ればせながら、切符は、といつて女に求めた。ないのよ、といつて、女はすましている。なければだめですよ。はいれるからいいじやないの。だめですよ。三十六人にきまつているんですよ。一人位いいじやないの、だつてあんなにたくさんの人があぶれているじやありませんか。乗れるからいいじやないの、乗れるのに乗せないという法があるの。問答は果てそうにない。運転手はその問答を乗せたまま走り出した。結果はわかつていた。女は完全に勝つたのである。心臓のつよい女だな、と、ささやく乗客の声も聞えぬものの如く、女はすでに乗込んでいる男から、うまくやつた、と、ほめられ、いかにも得意そうに、人込みの中におし分けてはいるのであつた。
やはり天草の女に違いなかつた。
バスは、主として海岸ぞいに走つた。道路の凸凹がはげしく、私はしばしば天井に頭をうちつけなければならなかつた。右手遙かな海上の白い波頭は、あきらかに時化ていることを説明しているもののように、歴
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