ある。すると、三番目あたりに位置していた男が、並んでいるぞ、並んでいるぞ、と、その女にどなりつけた。女はふり向きもせず、第一番の切符をせしめようと、しきりに切符売に交渉している。三番目の男は、がまんならなくなつたらしく、つと後続の人々をふりかえり、みなさんどうですか。その女のわりこみを許しますかと相談をもちかけた、だめだ、ひつこめ、この心臓女、などの罵声がとび出す。さすがに女もそれには抗しきれなかつたものとみえて、しぶしぶ引さがつていつた。
私は三十六番目の切符を手にいれた。さいごの一枚にあたつていた。若しもあの女のわりこみを見逃していたら、私はついに七里徒歩組に編入される危い瀬戸ぎわであつた。
須子の橋がこわれていることだけは、ほんとうであつた。そこまで三十分の徒歩はしかたがなかつた。しかし私にはかえつて幸というものであつた。春の早い天草の海浜を歩くことは、もうけものでさえあつたのだ。
三十六人は、思い思いに須子のあたりに集結していた。あぶれた人たちも、トラツクを交渉してみたり、しかたがない歩くのだと、あきらめたりして、私たちの後から続々やつて来た。
バスが来た。私たちは番号
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