聞いている中に、いつか私は、それ等学究の徒が、世俗ともつとも縁遠い研究に没頭する所以が、単なる趣味などから出発したものでない、ということを理解しはじめた。尤も船底の舟喰虫の駆除を、毒物塗料によるか、機械的設備によるか、将又アメリカのようにDDTによるかは、彼の研究の分野ではないが、その前提条件として、それ等の生態を研究することは、決して学究の徒の本来の使命から、逸脱するものではない、という信念が、その情熱をかきたてているようであつた。
 なお、めすのからだの中におすが棲息するという、ケハダエボシという動物の研究なども、興味あるものであつたが、ことがあまりに専門的にわたると、私たちには、ただなるほどなるほどと、分かつたような顔をするより外はなかつた。
 水族館は、ただ形ばかりといつた程度で、特筆するほどのこともなかつたが、一般人の教養と常識を高めるという意味あいから、折角の設備を活用してもらいたいと思つたのは、私だけではあるまい。
 葉桜と巨松の間をぬけ、うららかな春光を浴びて、丘陵を少しのぼると、海藻などを乾している漁師らしい家並がつづき、その向こう砂丘の上に、砲台とも覚しい巨大な石碑
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