ところなので、世間的にもあまり知られていないらしいが、朝日新聞記者に語るところを傍聴していた私は、思いがけぬところに迷いこんだ幸を、しみじみと感じたものである。
 ここではもちろん、近海の魚族の研究を主として行つているそうだが、ウニ[#「ウニ」に傍点]やクモヒトデ[#「クモヒトデ」に傍点]などの研究で学位を得た人たちも、数人ある由、そこでK氏であるが、はじめ彼は研究の結果をさぐり出そうとする記者の問いをはぐらかして答えなかつたが、それでも私たち素人にも分かるようなことを、少しずつ語つて聞かせた。
 K氏の研究の対象は、船底に附着するセン[#「セン」に傍点]孔動物である由。クモヒトデ、フジツボ、クサコケ虫等のように、船底に附着棲息して、船の速度を落とし、重量を増して、燃料に影響を及ぼし、船体を害する生物の研究に、その生涯を賭けているそうだが、私はその青年の情熱を、尊敬する。その情熱は、はげしい火を吐くようなものではないが、静かに落付いた情熱である。私などは、もつとも平凡な常識人だから、ともすれば、フジツボなどという瑣小な動物の研究に一生を賭ける人の常識を疑いたくなる。ところが、K氏の話を
前へ 次へ
全16ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷 健 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング