僅かに昔ながらの山人の片鱗《へんりん》を見る事が出来るであろう。
 山人にとっては余りにテンポが早すぎる現代である。
 紺の脚袢《きゃはん》、蒲《がま》はばきは、ゲートルに、草鞋《わらじ》は、ネイルドブーツに、背負梯子《しょいな》は、ルックサックに、羚羊の着皮は、レーンコートに移り変る。
 有明口や、白馬口方面には仲々モダン化した案内人を見受ける。彼らは手製の荷杖を捨てて、ピッケルのマークを誇り合うようにさえなった。有明の中山彦一はシェンクのピッケルを有《も》ってるぞという話まで伝わって来る。
 けれども結局山人である彼らにとっては登山者の知識、技術、セオリー通り追付いてゆく術《すべ》はないのだ。
 登山者は実に多種多様だ。ある人に取っては彼らは、既に案内者ではあり得ない。ポーターにしか過ぎない。登山者はまた、実に様々な要求を彼らに希望する。鉄道省旅客課あたりから登山者の感想、註文を求めると、千差万別な投書が舞い込むのである。
 △案内人の人格教養を高めよ!
 △客の作成せるスケヂュールを変更するな
 △料金を下げよ
 △山人独特の純朴な気持を失うな
 ――彼らの気風の変ってゆくのは登
前へ 次へ
全10ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
百瀬 慎太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング