変更して、林治を案内として中又川を登ることに決定した、さていよいよ多年の宿望を果す日が来たかと、早朝に起きて見ると快晴である、急いで結束していざ出発となると、人夫が一人いなくなっている、元来湯谷村は行き詰りの山村であって、大湯と橡尾又《とちおまた》の二温泉があるから、他所から這入《はい》る人の過半は遊びに行くので、土地相応の贅沢《ぜいたく》はすることになる、随《したが》って土着の人には他所から来て少しでも知られている者からは、かかり合いに余徳があるものと考えているものが多い、銀山平開墾事業が起って、白井が高橋農場の主任となってからは、賃金を一定するとか、その他にいろいろ改良を試みたので、表面からは誰れも文句を出すものはないが、裏面では反感不平を抱いているものもある、その復讐《ふくしゅう》か否《いな》かそこまでは知らないが、人夫の一人の労働の割合に賃金が不足だというて、前夜白井に叱責《しっせき》された男が、今朝になって急に病気になったから帰えるといい出して、林治と今一人の人夫が様々に説諭したが、白井が自分の所へ来ている中に匆々《そうそう》帰村したことが分った、銀山平の養蚕をしない農家は、
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