林の下に繁茂屈曲している石楠花《しゃくなげ》や、熊笹を蹈み分けて、馬の背のような尾根を直《ひ》た上りに登って行く、登るに随うて大樹が次第に稀疎となって、熊笹がだんだん勢を逞《たくましゅ》うして来る、案内の人夫連は間断なく熊笹や灌木を切り明けて進む、蹇々《けんけん》して歩行の困難のことは筆紙にはとても尽し難い、時々木の間から平ヶ岳の雄大な絶頂が右の方に露われる、暫《しばら》くで尾根の頂上に出て左の方に燧岳が聳立《しょうりつ》してはいるが、この辺は熊笹や灌木が密生している極点であって、簾と格子を越して美人を望むの観がある、何分にも熊笹が八、九尺以上もあって群立しているから、三間も距《へだた》ると音ばっかりしていて人影を見ることが出来ない、間もなく樹竹の絶えた小平坦に出た、陸地測量部の三角点の礎石があった、ここは観測の折に樹竹を刈り取ったらしい、時刻は午後の三時である、また熊笹や密林の中を潜ったり蹈み分けたりして行くと、七時に熊笹と樹木が全く絶えた芝生となって、これに点綴《てんてい》している植物や幾多の小池や残雪やが高山性となって、眼界も俄《にわか》に開けて※[#「巾+(穴かんむり/登)」、
前へ
次へ
全31ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
高頭 仁兵衛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング