た不動瀑布の上に来た、時計が五時半を指していた、此処は樹木も多いし川にも近いしそれ以上には適当の場所がないから、平ヶ岳登攀には非常な重要な地点である、ここまでは岩魚釣りが来る、不動瀑布は殷々《いんいん》として遠雷のような音をたてているが、断崖|峭壁《しょうへき》で囲繞《いにょう》されているのでその本体を見ることが出来ぬ。
 翌十七日の七時に野営地を出発して白沢登りを継続した、白沢は水量がすこぶる多くて、また山側の崩壊が稀《まれ》で洪水も少ないと見えて、岩石に稜角がなくて水苔が生じていて、粗面質の岩石でも往々に足を辷《すべ》らして、危険千万であるから歩行に非常の注意を要する、だから一朝豪雨に際会して水量が増した時には、到底この沢を行くことが出来なくなって、他に別路がある訳でもないから、野営地に滞在して、減水を待たなければならない、白沢を溯ることが一時間で平岳沢の出合に達する、ここから川を去って白沢と平岳沢の間に出ている尾根を登るのである、頂上までは飲料水も残雪も平坦地もないから、途中で日が没して雨でも降って来るとすこぶる惨憺《さんたん》を極めねばならない、八時半に出合の処を出発して闊葉樹
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