立てるので、馬子のセカチは僕等に注意して、さう馬の尻を打つなと云ふ。早くつかれさしては、いよ/\難道にさしかかれば、倒れてしまう恐れがあるからであつた。
難道は降りだ。俗に七曲りと云ふのは、その實、十三曲りも十四曲りもあつて、それがおの/\十間または二十間づつに曲り、何百丈の谷底に落ちて行くのだ。馬上から見あげ、見おろすと、ぞつとして、目も暗んでしまう。親の乳を追うて僕等の馬について來た小馬(三ヶ月)は、或る曲り角で石ころに乗つて倒れ、すんでのことで谷底へころげ込むところであつた。
そんなにしてまでも、ポニイと云ふものは、てく/\と、どこまでも、親馬について來るのだ。日高を旅行すると、大抵の乗馬には、女馬なら、小馬が必らずついて來る。當歳から三歳まではさうだ。それがなか/\面白いもので、どこを來てゐるか知らんと思つて、時々乗り手がふり返つて見る。すると、相變らずてく/\やつて來るのだ。
山上の萩の露
僕等が猿留村に着したのは午後二時頃であつたが、驛遞ではつぎ馬がない、且、あすも十一時頃でなければ用意が出來ないと云ふのだ。で、そこにとまるのも胸くそ惡くなり、勇氣を出して
前へ
次へ
全9ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岩野 泡鳴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング