日高十勝の記憶
岩野泡鳴

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)樣似《しや(さ)まに》を

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いよ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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    オホナイの瀧

 日高の海岸、樣似《しや(さ)まに》を進んで冬島を過ぎ、字山中のオホナイといふあたりに來ると、高い露骨な岩山が切迫してゐて、僅かに殘つた海岸よりほかに道がない。おほ岩を穿つたトンネルが多く、荷車、荷馬車などはとても通れない。人は僅かに岩と浪との間を行くのであつて、まごついてゐると、寄せ來る浪の爲めに乗馬の腹までも潮に濡れてしまふのだ。
 或高い岩鼻をまはる時など、仰ぎ見ると、西日に當つて七色を映ずる虹の錦の樣なおほ瀧だ。その裾を、瀧に打たれながら、驅け拔けなければならなかつた。その次ぎのおほ瀧は高さ五十尺、幅七八尺、俗に白瀧といふ。そのもとに、ぽつねんと立つてゐる南部人の一軒家がある。夫婦子供四人の家族だ。板や雜草で組み立てた、して屋根には石ころをつみ重ねた家だ。
 近年殆ど漁がなく、毎年、昆布百四五十圓から二百圓、フノ
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