リ並にギンナン草二三十圓、ナマコ三四十圓ぐらゐの收入を以つて、僅かにその生活を維持してゐる。十月初旬から雪がやつて來るが、それにとぢ籠められては、山へのぼつて、焚き木でも切るより仕かたがなくなるさうだ。
さう聽いて、頭上を仰ぐと、その山は直立した崖で、殆ど道もついてゐない。山に迫られ、冬と雪とに迫られるこの家族の寂しみを思ひやつても、ぞつとする。
そのあたりの潮が吹きかかる岩の間から、澤山のみそばへ並に岩れんげが生えてゐるのを二三株摘み取り、僕はそれを瀧と一軒家と自分の馬に瀧の水を飮ましたとのなつかしい記念にした。
猿留の難道
太平洋に突出する北海道の東南端、襟裳《えりも》岬のもとを南海岸から東海岸に出るには、本道三難道の一なる猿留《さるる》山道を踏まなければならない。
追ひ分坂を歌別から庶野《しよや》に越え、殺々高くのぼつて行くのだが、この邊はよくおやぢ(乃ち・熊)の出沒するところだ。然し生き物のにほひがするのは僕等と馬子の愛奴《あいの》のセカチ(男兒)と、それらが乗る馬と、ついて來た小馬としかなかつた。
如何にも寂しいからでもあらう、氣がせかれ、自然に馬をぼつ
前へ
次へ
全9ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岩野 泡鳴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング