拾ってもらったんです」というと、その跡は吉弥の笑い声で説明された。
「それでは、いッそだまっておれば儲《もう》かったのに」
「ほんとに、あたい、そうしたらよかった」
「あいにく銅貨が二、三銭と来たら、いかに吉弥さんでも驚くだろう」
「この子はなかなか欲張りですよ」
「あら、叔母さん、そんなことはないわ」
「まア、一つさしましょう」と、僕は吉弥に猪口《ちょく》を渡して、「今お座敷は明いているだろうか?」
「叔母さん、どう?」
「今のところでは、口がかかっておらない」
「じゃア、僕がけさのお礼として玉《ぎょく》をつけましょう」
「それは済みませんけれど」と言いながら、婆アさんが承知のしるしに僕の猪口に酒を酌《つ》いで、下りて行った。

     三

「お前の生れはどこ?」
「東京」
「東京はどこ?」
「浅草」
「浅草はどこ?」
「あなたはしつッこいのね、千束町《せんぞくまち》よ」
「あ、あの溝溜《どぶだめ》のような池があるところだろう?」
「おあいにくさま、あんな池はとっくにうまってしまいましたよ」
「じゃア、うまった跡にぐらつく安借家が出来た、その二軒目だろう?」
「しどいわ、あなたは
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