人の前でのろけを書きゃアがった、な」
「のろけじゃアないことよ、御無沙汰《ごぶさた》しているから、お詫《わ》びの手紙だ、わ」
「『母より承わり、うれしく』だ――当て名を書け、当て名を! 隠したッて知れてらア」
「じゃア、書く、わ」笑いながら、「うわ封を書いて頂戴よ」と言って、かの女の筆を入れたのは「野沢さま」というのである。
僕はその封筒のおもてに浅草区千束町○丁目○番地渡瀬(これは吉弥の家)方野沢様と記《しる》してやった。かの女はその人を子供の時から知ってると言いながら、その呼び名とその宿所とを知っていないのであった。
「………」さきの偽筆は自分のために利益と見えたことだが、今のは自分の不利益になる事件が含んでいる代筆だ。僕は、何事もなるようになれというつもりで、苦しい胸を押えていた。が、表面では、そう沈んだようには見せたくなかったので、からかい半分に、「区役所が一番恋しいだろう?」
「いいえ」吉弥はにッこりしたが、口を歪めて、「あたい、やッぱし青木さんが一番可愛い、わ――実があって――長く世話をかけたんだもの」
「じゃア、僕はどうなるんだ?」
「これからは、あなたの」と、吉弥は
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