ず二、三日考えさせることにした。

     五

 それからというもの、僕は毎晩のように井筒屋へ飲みに行った。吉弥の顔が見たいのと、例の決心を確かめたいのであったが、当人の決心がまず本統らしく見えると、すぐまた僕はその親の意見を聴きにやらせた。親からは近々《ちかぢか》当地へ来るから、その時よく相談するという返事が来たと、吉弥が話した。僕一個では、また、ある友人の劇場に関係があるのに手紙を出し、こうこういう女があって、こうこうだと、その欠点と長所とを誇張しないつもりで一考を求め、遊びがてら見に来てくれろと言っておいたら、ついでがあったからと言って出て来てくれた。吉弥を一夕友人に紹介したが、もう、その時は僕が深入りし過ぎていて、女優問題を相談するよりも、二人ののろけを見せたように友人に見えたのだろう。僕よりもずッと年若い友人は、来る時にも「田村先生はいますか」というような調子でやって来て、帰った時にはその晩の勘定五円なにがしを払ってあったので、気の毒に思って、僕はすぐその宿を訪うと、まだ帰らないということであった。どこかでまた焼け酒を飲んでいるのだろうと思ったから、その翌朝を待って再び訪
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