ね、それは僕の胸にあるんだ」
「あたい、役者になれば、妹もなりたがるにきまってる。それに、あたいの子――」
「え、お前の子供があるんか?」
「もとの旦那《だんな》に出来た娘なの」
「いくつ?」
「十二」
「意気地《いくじ》なしのお前が子までおッつけられたんだろう?」
「そうじゃアない、わ。青森の人で、手が切れてからも、一年に一度ぐらいは出て来て、子供の食い扶持《ぶち》ぐらいはよこす、わ。――それが面白い子よ。五つ六つの時から踊りが上手《じょうず》なんで、料理屋や待合から借りに来るの。『はい、今晩は』ッて、澄ましてお客さんの座敷へはいって来て、踊りがすむと、『姉さん、御祝儀《ごしゅうぎ》は』ッて催促するの。小癪《こしゃく》な子よ。芝居は好きだから、あたいよく仕込んでやる、わ」
吉弥はすぐ乗り気になって、いよいよそうと定《き》まれば、知り合いの待合や芸者屋に披露《ひろう》して引き幕を贈ってもらわなければならないとか、披露にまわる衣服《きもの》にこれこれかかるとか、かの女も寝ころびながら、いろいろの注文をならべていたが、僕は、その時になれば、どうとも工面《くめん》してやるがと返事をして、ま
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