その來た手紙の書き手を、まんざら自分の知らない人だとは斷念の出來ないものである。これは自分の知らないうちに、一種の神秘的交通[#「神秘的交通」に白三角傍点]があつたに相違ないからだ。それが段々近づくことになつて、見もし、笑ひもし、接吻もすることになると、その最初の接吻が、一緒に住んで居る愛人の胸中に、いつも最も云ひ難い、最も愉快な記憶を浮べたり、また沈めたりする[#「その最初の接吻が」〜「また沈めたりする」に傍点]――この刹那が最も興味の盛んな時である。婦人は男子よりも運命に司配されることが多い[#「婦人は男子よりも運命に司配されることが多い」に白丸傍点],然し、素直で、眞率であるので、男子の境遇よりも婦人の方が神に近づいて居る[#「然し」〜「近づいて居る」に傍点]。今、女を抱いて居るとして、その女の忠實か不忠實か、浮氣か眞面目か、天女か鬼女かを問ふ必要はない――よしんば、下等な淫賣婦であつたにしろ、一たび『一つの心靈が一つの心靈を接吻する[#「一つの心靈が一つの心靈を接吻する」に白丸傍点]』と思ひ得られる時なら、その刹那は不思議であつて、驚嘆すべきものである。――久遠の愛を掴んで居る
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