もなるし、また女ともなる[#「人の性根は」〜「また女ともなる」に白三角傍点]――慕はれたのが男、慕ふのが女で、僕等は慕ひ、慕はれながら、乃ち、かたみに男女と變性しながら、向上するのである[#「僕等は慕ひ」〜「向上するのである」に傍点]。その果《はて》は心靈の極度なる神に達して、神は花聟であるし、僕等は花嫁であるのだ。天は對を許さないから、僕等の状態は小い心靈全體の交通となるわけである。聖書の『天使は嫁がず、娶らず』を説明したのであらう。
 次に、メーテルリンクはどうかと云ふに、その『婦人論』[#「その『婦人論』」に白三角傍点]を見れば分る。心靈は、何萬年も先きから、愛せらるゝのを待つて居る[#「心靈は」〜「待つて居る」に白丸傍点]ので、愛の油さへそゝげば、その靈は無言の暗處から跳び出て來るのである[#「ので、愛の油」〜「來るのである」に傍点]。油を注ぐものも、注がるゝものも、はじめから豫定されて居るのだ。それは、必らずどこかで一度相見たことがある靈と靈とであるからである。たとへば、深みの奧に隱れて居る遠島から、手紙が來たとする――それが實際生きて居る人だか、居ない人だか分らないながら、
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