氣込みであるので、自然と渠の天下が天平になつて、青年は悲嘆してはならない、すべからく太陽の樣に麗はしくなれと云ふに至つたのは、當前なのであらう。
 然し、渠は初めからそう云ふわけではなかつた[#「然し、渠は初めからそう云ふわけではなかつた」に傍点]。その實際の經驗から、烈しくなつて來た悲觀の反動が、一方の極端まで樂觀に進んだのである[#「その實際の經驗から」〜「進んだのである」に白丸傍点]。一たび世間の眞相に觸れたことのある人々には、必ず僕の云つて居ることが實際であるのだ。メーテルリンクも『星』といふ文中に云つてある通り、『世紀毎に別な悲愁を抱きしめるのは、世紀毎に別な運命を曉るからである。』僕等が最も深い悲愁に沈んで居る時ぐらゐ、自我の發揮して居ることはない[#「僕等が最も深い悲愁に」〜「居ることはない」に傍点]。抱月氏の所謂『赤い火』に對して、『青い火』が最も盛んに燃えて居る時である。僕等が悲愁の偉大になるに從つて、自覺の力が振つて來て、僕等の自我が擴張する。これ、我を物外に解放する時であつて、心靈その物の生命がこの時急流となる。エメルソンに據つて云つて見れば、『人生の最も善い刹那
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