]。これは純粹無垢の情緒を以つて感じられる世界である。無言の星が神秘の夜空《よぞら》に輝くと、遺傳も運命もそれから出た光線の一部に過ぎない。
僕等を制限するものは運命であるので、僕等が獸的であれば、運命も獸的となる,僕等が靈的となれば、運命も靈的である。これが神秘的自我の發現[#「神秘的自我の發現」に白三角傍点]する工合である。自我が無言のうちに最も發揮せらるゝところから、メーテルリンクは悲劇にスタチツクトラジエデイ、乃ち、靜的悲劇[#「靜的悲劇」に白三角傍点]を發案した。芝居を少しも動作を爲ないで、心持ちばかりで見せるので、――つまり、有形の動作がなく、無形の事件のうちに、一種の靈果を感じられる樣に爲やうと云ふのである。これは畢竟空想に過ぎないとしても、渠の戯曲には、この表象的作法が至るところにあらはれて居る。メーテルリンクに據ると、人の日々の生活上に見える悲劇的要素が、眞の自我に對して、頗る自然的で而も切實である度合は、臨時の大事件に包まれて居る悲素よりも、遙かに多いので[#「メーテルリンクに據ると」〜「遙かに多いので」に傍点]、渠の詩材は平凡な事件に取つてあつても、悲莊なところ
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